人気ブログランキング |

「敵」

筒井康隆
新潮文庫

思い出そうと
すればするほど消えてゆく
夢のように、
書き綴ろうとすればするほど
非現実化する
現実


=内容に触れています=

元大学教授の渡辺儀助の日常を事細かに記載した老人文学。起床から始まり、朝食、昼食、夕食、交友、買い物、ネットとあらゆることを記してゆく。机の中身や買い物の詳細まで語りながら、渡辺儀助の人物が全く見えてこないのが不気味である。

僕は筒井康隆は嫌いだが、この小説だけは何度も(本当に何度も)読み返している。そこで気がついたのだが、実際の登場人物はとても少ないのだ。全ては渡辺儀助の回想なのである。

挨拶に来て応接間にコーヒーをぶちまけてしまった銀行員とか、気に入ったら金を払ってくれと枕を置いていってそれっきりの枕売りなど、過去に出会った謎めいた人物も全て、実は夢うつつなのではないか。

微妙にずれた感覚、頻出する当て字の擬音。解説で川本三郎も書いているが、渡辺儀助は発狂している。

終盤の「幻聴」の章は恐怖である。はじめて読んだ時のショックを僕は忘れない。

追記
言うまでもないことだけど、僕はこの本では「朝食」「麺類」「肉」「魚介類」「野菜」の、食べ物に関する章が好きです。僕のツイートは食べた物のことばかり。


by tomoarrow | 2010-07-08 08:00 | 書物について | Comments(0)