「新世界より」
講談社ノベルス
ポストアポカリプスもの。1000年後を舞台に、呪術と化け物に囲まれて暮らす全体主義的社会を描くのだから、どこかで破滅を経ていることは容易に想像ができる。
抑圧された青少年の成長譚であり、異形の世界を巡る冒険譚でもあり、暗黒の歴史を明かしてゆくミステリでもある。
反転
暗黒時代を記録しているのは、獣に擬態したアーカイブ端末。これは超ハイテクノロジーの集積体で、一体一体がそのまま図書館となっている。それの語る暗黒の歴史には胸がむかむかすること請け合いである。
でもそれは、世界の逆転を幻視する、SF読者にとっては至福の読書体験でもある。
エントロピーが収束したかと思うと拡散し、解かれつつある謎が再び隠され、カオスに飲み込まれていく。延々と続くカタストロフ描写は長いとも思ったが、読み終わってみると必要だったのかなとも思う。なかなか読み終わらないのが魅力の小説、と云うのも確実にあるわけだから。